機楽〜はたらく #5
機楽〜はたらく
編み機とハタラク職人のモノ語り
連載企画 第五回目、
奈良県・広陵町にある靴下工場「ヤマヤ株式会社」
生産現場から、裏摘み・返し・傷見工程などの職人にインタビュー。
靴下工程では機械だけではなく、人の手と目が欠かせない重要な工程があります。
それが今回ご紹介する「裏摘み」と「傷見」という工程です。
何やら糸がうじゃうじゃ、、、と写真のようになっていることもあるかと思います。
筒状に編み立てていく中で糸が渡ったままになっています。
着用時に足の指が引っかからないように片足ずつ1枚1枚手作業で糸の切れ端を処理していく地道な作業が「裏摘み」という工程です。
自動トリマー機という機械もあるようですが、ヤマヤでは導入していないのでまだまだ人の手と目を頼りにしています。
ちなみに写真の靴下はHoffmann22AW商品、9-1083|コットン Play music柄
(※加筆 ご好評につき完売いたしました)
編み目の乱れを整えたり、破損がないかを一枚一枚、確認する作業が「傷見(きずみ)」という 工程。
靴下を表に返し、「傷見板」にかぶせて検査します。
画像のような柄物靴下は編立の段階で少し糸が混ざる場合があります。
混在した糸を抜く後工程で修繕が必要な部分がすぐに分かるよう、シールで印をつけています。
これらの工程では多くの人員が必要で、社内に勤務する従業員の他、居職(いじょく)従業員にも連日のようにお仕事を担っていただいています。
ヤマヤでは自社ブランドの他、OEM事業もしており、情報開示はできませんが人気のアパレルブランド靴下を実はヤマヤで作っていたりします。
納期に間に合わせるべく数をこなしてナンボ。ずっと座りっぱなしでの細かい作業には大変なご苦労があります。
無理をお願いすることも多く、「急ぎの分が仕上がりましたよ!」とご連絡をいただく度に感謝の気持ちで胸がいっぱいになります。
それでは今回は1番キャリアの長い、ガラボウソックスなどの特殊な靴下から、編み柄が複雑で細かなチェックが必要な商品をメインにお任せしているベテランの居職従業員にインタビュー。
ー 編み目やキズなどの検査は大変細かく気の抜けない作業ですが、その中でも難しく感じたりすることはなんですか?
居職員 A品(製品となる品)、B品(キズなどがある商品)の判断を下すときです。見た目で明らかに判断しやすいキズは良いのですが、厳しく判断をする場合もあり、心苦しく感じることもあります。
ー 1日の作業量は多い日でどのぐらいでしょうか?
居職員 毎日平均して500〜700足、繁忙期には1,000足程度です。靴下の種類などにより作業時間はさまざまです。
ー ご自宅での作業にあたりオン・オフの切替時に大切にされていることなどをお聞かせください。
居職員 夫が朝早くに出勤するので、朝の早い段階で家事を一通り済ませることがルーティーン。自分のペースで作業を進めることができ、細かい作業もあまり苦痛に感じていません。性に合っているんだと思います。お花が好きなので一段落つく度に鉢植えの手入れをしたりすること、それが切替になっていると思います。
ー 最後に尋ねます。あなたにとって靴下とは?
居職員 生活の一部。年齢を重ねても仕事ができることで毎日の生活にもメリハリが出来、1日がとても充実しています。仕事がなかったらだらしなく過ごしていると思うので、仕事ができることに感謝、感謝です!
写真には写しきれないほど色鮮やかなお花たち。玄関先に沢山飾られていました。
花を愛する人は心清き人、という歌があるように、とても謙虚な方。
普段は電話でお礼をお伝えすることしかできなかったので、このインタビューを機にお人柄も知れてとても心温まりました。
さて、続いてのインタビューは居職先や外注業者へ靴下を配達する専属ドライバーさんです。
70歳を過ぎても1袋が百足前後と相当な重量になる集荷袋の配達・荷降ろしなど。
暑い日・寒い日も関係なくアチコチ駆け回り、バリバリご活躍です。
実は配達の他、教鞭を執っていらっしゃるとても博識な紳士です。
言葉遊びがお好きなようで、知的な笑いをドライブ中に考えては話しかけてくださり、従業員を和ませてくれます。
ー 居職や委託業者、多い日では何軒くらい訪問しますか?
配達員 居職先は8軒ほど。その日によって行き先は異なります。
― 作業内容を伝える際、気をつけていることはありますか?
配達員 「作業内容が不明な場合、電話などで直接ヤマヤの担当者へ確認してください」と伝えています。 伝言ゲームを例にすると、人から人へ物事を一字一句違わず伝えるということは思うより難しい。ただ、会社の組織、団体などで間違った情報が伝わってしまうと時には大変なことになってしまうこともあると思います。滞りなく伝達することは大切ですが、その時発することばが上意下達的にならないように心を配っています。
― 天候などで過去に苦労されたことはありますか?また体力勝負の業務、ご自身の健康管理などで心がけていることがあれば教えて下さい。
配達員 毎日起床時、體(からだ)の声を聞くように心がけています。人は生まれてくるときに四百四病をもって出てきている。健康って四百四病が治っているとき。「四百四病(しひゃくしびょう)」は、仏教で、人間がかかるすべての病気のことをいいます。ちなみに「四百四病の外」というのは恋煩い。病気のうちに入らないから大したことはないと考えるか、どんな病気よりも恐ろしいものと考えるかは、その人次第でしょうか。
ー 最後に尋ねます。あなたにとって靴下とは?
配達員 靴下を履く行為は心と躰を起こす、覚醒させる最初の一歩。アイドリングと考えています。
このインタビューを機に、ご紹介しきれないお話をいろいろと伺うことができました。
また別の形でご紹介できるよう思案中です。
そして、この読み物ページの表題「機楽〜はたらく」より、お得意の言葉遊びを楽しんでくださいました。
「機楽」=「側楽」=「傍楽」=「働く」 だね!と。
あとがき
裏摘み・傷見工程などの職人のお話、いかがでしたでしょうか。
靴下ってもっと簡単にできるものと思っていた。そんな方も多いのではないでしょうか?
このような陰の立役者のおかげで靴下製造は成り立っております。
本当に重要な工程を担っていただいている従業員のみなさまへこの場を借りてお礼をお伝えしたいです。
いつもありがとうございます!!
次回もまだまだあるその後のアレコレを追っていきます。どうぞお楽しみに!
企画・構成/ 清瀬 表題/ 藤原 編集/熊谷