機楽〜はたらく #3

機楽〜はたらく #3

機楽〜はたらく


編み機とハタラク職人のモノ語り 

連載企画 第三回目、


奈良県・広陵町にある靴下工場「ヤマヤ株式会社」
生産現場から、

ベテラン靴下職人にインタビュー。


靴下はどのように編み立てられているのか?
ご周知の方もいらっしゃるとは思いますが、実はとっても奥深い靴下の世界。
靴下を編み始める前には編み機に送り込むデータの作成、糸のセッティングや調整、様々な工程があります。
ヤマヤで製造する靴下の大半の編み機は靴下専用丸編機。シリンダー(円筒)を回転させながら編み立てていきます。子ども用と大人用では脚回りサイズが違うので編み機によって針が整列しているシリンダー径の大きさが違ってきます。また、靴下の厚み・糸の太さにより針数が変わります。例えば薄手のものは180−220本。厚手のものは44-96本の針がシリンダー状に整列しています。ちなみに、5本指の靴下は横編み機。同じ靴下でも編み方や機械も様々です。

前置きが長くなりましたが、ダブルシリンダー(※1)の編み機をメインで担当する駒井、そしてシングルシリンダー(※2)、最新鋭機を担当する東山。両人とも一級ニット製品製造技能士(※3)のベテラン職人たちにたずねていきます。



ー自身の好きな製造工程があれば教えてください。

駒井 ダブルシリンダーの編み機で柄出しをする工程です。特に表目と裏目の組み合わせで立体的に凹凸感を表現するリンクス柄が特に面白いです。 

昭和感たっぷりのコンピューター。ヤマヤではまだまだ現役。フロッピーディスクでデータを読み込みます。  ▶▷ リンクス柄の商品はこちら



東山 シングルシリンダーは柄物が多いのもあり、調整にも一苦労です。生産リスクが高い商品もあるので、トラブルなく生産がスムーズに進む時が一番嬉しいです。

 

ーお気に入りの編機、その理由を教えて下さい

駒井 ダブルシリンダーの機械は柄を変更するにも一苦労。なかなかクセがある分、そのことが非常に面白いと思っています。


若手育成中の微笑ましいシーンです。 はじめての糸かけ作業にドキドキのひとコマ。

東山 日本製の機械が一番好きです。日本製というだけでどこか信頼できる編み機です。靴下向け丸編み機メーカーが編み機事業から2015年に撤退してしまいました。国内の編機メーカーが存在しないことが非常に残念でなりません。


 
ー編み機との関わりの中で苦労話を教えて下さい。

駒井 ダブルシリンダーの修繕です。繊維品の製造にはどうしてもホコリが発生してしまいます。
機械の中に入り込んで誤作動を起こさないよう大敵を取り除く作業には苦労します。非常に重量がある上部シリンダー。針交換時にはシリンダーを持ち上げ手入れをする必要があり、この作業が年齢とともにきびしく感じるようになってきています。


東山 昨年末にイタリアにある世界最大の靴下機械メーカー、ロナティ社の新鋭機が入り、マニュアルは外国語表記。編機の専門的な英語知識が必要となるため、用語などの翻訳作業に時間がかかってしまいます。
 


ー最後に、お二人にたずねます。あなたにとって「靴下」とは?

駒井 必要品。当たり前に存在する、なくてはならないものです。

東山 消耗品。だけども、そこに履き心地を最重視しながら編み立てているのが私のこだわりでもあります。


 
ーヤマヤのレジェンド編み機がつくるもの

日本製編機の製造メーカーがなくなってしまいましたが、メンテナンスや部品の調達などはどう賄っているのか?
部品は現在でも調達は可能のようです。コンピュータ制御が進化して以来、柄表現など豊富なラインナップの靴下を製造できるようにはなりましたが、基盤が破損してしまうと使えなくなるリスクがあったり、生産効率が決して良くないという理由から、業界内ではやむを得ず編機を手放すという苦渋の決断をされている工場も少なくはありません。そんな中、廃業された靴下工場からヤマヤでは編機を引き取り、手を加えながら現在も活躍しています。今回はそのレジェンド編み機を紹介いたします。

[イギリス製ベントレー社の編み機。]

針数44本という特殊な編み機で、ローゲージソックスが編みあがります。ヴィンテージマシーンで編み立てた靴下は、どこか懐かしい手編みの靴下のような雰囲気で、ボリュームがある靴下に仕上がります。古い編機は編むのに時間がかかりますが、昔の機械ならではの風合いで、他にない特別な一足になります。 ▶▷この編み機から誕生した靴下はこちら

 

[日本製 B式靴下編機(※4)

靴下編み機として日本で最初に完成され、この風貌からも靴下産業の歴史を感じるこの編機。
口径の小さい編み機です。つまりは赤ちゃんのソックスを編立てています。▶▷この編み機から誕生した靴下はこちら

 

 


【用語解説】

(※1)ダブルシリンダーとは
上下のシリンダー(円筒)に沿って針が整列していて、上で糸をとったり下で編んだりすることにより、
縄柄や畦編み(リブ編み)、鹿の子編み、リンクス編み、ジャカード編み、タック編みができる編み機のこと。
編み機のご機嫌を見ながら、ゆっくり編み立てることでふっくらとした靴下が仕上がります。

(※2)シングルシリンダーとは
シリンダー(円筒)の針が下にだけある編み機。PCで柄や文字などを入力し、花柄や細かい柄を表現することが可能です。

(※3)ニット製品製造一級技能士とは
技能士とは各都道府県の職業開発能力協会が実施する技能検定に合格した人に与えられる国家資格です。


(※4)B式靴下編機とは
平編靴下を作る旧式シングルシリンダー編機のこと

 

あとがき

ベテラン職人のお話、いかがでしたでしょうか。
職人に話を尋ねると専門用語が飛び交います。何時作っても同じように仕上げるのが基本で、そのために、糸の色による違い、巻きの状態、室温や編機の熱の状態など様々な条件のもとで一定の製品を作り上げるように大変苦心しています。単純に機械操作をするだけはでなく、熟練された匠の技も必要不可欠です。そして履き心地を追求し続ける職人の強いこだわりがヤマヤの靴下に集約されています。
次回は生産現場から、靴下製造は様々な過程を経て編み上がります。編み立てた靴下その後のアレコレを追っていきます。 どうぞお楽しみに!
 
企画・構成/ 清瀬  表題/ 藤原 編集/熊谷

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