機楽〜はたらく #6

機楽〜はたらく #6 靴下仕上セット加工

編み機とハタラク職人のモノ語り 
連載企画 第六回目、

奈良県・広陵町にある靴下工場「ヤマヤ株式会社」
生産現場から、靴下仕上セット加工の職人にインタビュー。

靴下によっては縫製始末が必要な箇所や刺繍を施したり、スベリ止めのプリントなど、様々な業者さまに委託しています。
今回は靴下工程では欠かせない仕上げ加工について。

糸季で販売しているオーガニックコットン、ヤク、ウールやリネンなどの肌にあたるメインで使用する天然繊維のことを表糸と呼んでおり、
その逆の裏糸とは強度やフィット性を高めるための伸縮性のある糸のことで、「ナイロン」「ポリウレタン」などの化学繊維が裏糸に属します。
裏糸はポリウレタンを芯糸にナイロンがカバーリングされています。
熱と蒸気を加えることで糸が縮んで形が整い、伸縮性が生まれ、ほどよく伸び縮みする履き心地の良い靴下に仕上げるため形を整える裏糸はまさに縁の下の力持ち。非常に重要な役割を担っています。裏糸が本領発揮させるための仕上げ工程のことを「セット」と呼んでいます。
ジュラルミン製足型金板に靴下をはめ込み、蒸気と圧力で靴下の形を整え洗濯後の収縮を少なくなくしたり、形を整え仕上げていきます。20枚(10足)=1デカと呼ぶ単位をひとまとめに括り、持ち込みます。この機械には1周につき1デカ×5セット。周回させながらセットしていきます。

※この工程では乾燥機にいれておりますが、製品になった靴下はアイロンや乾燥機はお控えください。

▼セット工程の様子


型板に靴下を履かせるのもスピード勝負。熟練の技が必要な工程です。


実はこのセット機、年季が入っているように見えますが、業界内ではまだ新しい方なんだとか。
日本製の機械、毎日ご機嫌をうかがいながら作業を進められるそうです。

靴下のサイズや形状によって型板も様々です。



それでは平日のほぼ毎日、セットをお願いしている職人にインタビュー。



ー 製品によって蒸気の当て方など違いはありますか?
 
  はい。靴下の素材や仕上がりの風合いよって、乾燥させる時間と蒸気の圧力も調節しています。

ー ヤマヤで製造した靴下はどのぐらいのペースでセットされますか?
  
  平日はほぼ毎日、日中の気温が高まる時間帯での作業は控えるため、早朝5時半から4、5時間ほど。日によって異なりますが繁忙期は月換算では12,000〜13,000足ぐらいのペースです。

ー 靴下業界で60年、長く続けてこられた秘訣などがあれば教えて下さい。
  
  10年ほど前に大病を患い、休業を余儀なくされ、廃業を考えたときもありましたが、ヤマヤの社長さんや従業員さんの心遣いがあり、現在までやってこれました。専務さんが頑張っている様子を見て刺激をもらっています!秋・冬の商品の生産に向け6月〜10月にかけてが繁忙期。真夏の繁忙期はまさに体力勝負です。繁忙期には体力温存のため控えていますが、友人たちとのゴルフを楽しみにしていています。コースを回ると緑の中で自然と歩くことが出来、鍛えられるかな。プレイ後の入浴やビールがまた格別!

ー あなたにとって靴下とは?
  「されど靴下。」かな。
 長崎県雲仙普賢岳麓の農家で育ち、8人兄弟の5番目。兄たちを亡くし実質跡取り候補ではありましたが家業から離れたい一心で、父の反対を押し切り集団就職で奈良へ。学生時代はテニス部に所属していて周りは靴下を履いていたけれど、我が家の暮らしは裕福ではなかったので靴下は履いたりすることはなかった、そんな私が導かれるようにこんなに長く靴下業界に身を置くとは。どこか惹かれるところがあったんでしょうね。(笑) 人生が変わりました。

故郷を離れて4年ほどは一度も帰郷することがなかったそう。
集団就職先では靴下編み機の調整やセット工程に携わり、その後はお人柄が功を奏し周りの働きかけがあり、靴下セット工場を設立されました。
20年ほど前までには奈良県内に工場があったベビーアパレルメーカーの靴下をメインに、有名企業の靴下セットを多く請け負っていたそう。
1日1,200足以上、当時はセット機械2台、1台につき3〜4名で付きっきりで24時間フル稼働していたときもあったとか。
広陵町ではかつては60軒ほどあったセット工場も現在は12軒ほど。世代交代をされているところもあるようですが、機械が入手困難ということもあり廃業される同業者が相次いでいるそうです。


あとがき

靴下仕上セット加工の職人のお話、いかがでしたでしょうか。
この製造過程はまさに蒸し風呂状態。スピードと体力勝負の立ち仕事、セット工場も機械が希少になってきており、大変貴重な存在。
取材時は真夏。暑くなるからとお気遣いいただき、朝の早い時間帯に伺うことができました。
「もう体力ないからな〜。」と弱音を吐かれるひとコマも。そうは仰ってもご年齢を感じさせない背筋。
蒸し風呂状態で日頃お勤めされていることもあってか、お肌は艷やか。まだまだ頑張っていただきたいです。


広陵町の午前中に煙が立ち上がっているところはこのようなセット工程をされている工場さんかもしれませんので近辺を通られる機会があれば、そんな街の様子にも是非ご注目ください。

次回、生産現場はいよいよ最終工程です。靴下についているアレは何故?という疑問の紐を解いていきます。どうぞお楽しみに!
 
企画・構成/ 清瀬  表題/ 藤原 編集/熊谷